そい じょ 

川崎さとみのプライベートブログです。 

霏霏(ひひ)として降る雪は・・。

 辻仁成著 「海峡の光」 新潮社版 を読んだ。

 

 霏霏(ひひ)として降る雪は全く止む気配を見せず、闇と雪が微妙に鬩ぎ(せめぎ)合っては視界を狭ばめ、私は記憶の中を歩いているような掴み所のない感覚に陥った。p112 Ⅱ章の書き出しである。

 

 霏霏(ひひ):雪・雨などがしきりに降るさま・・・、辞書引いてしまった・・・。母国語なのに知らない日本語は多くて、赤面する。

 

 久し振りに読んだ純文学小説。物語の舞台が函館だから・・という訳でもないだろうが、しみじみと冷えた印象がした。

とても磨かれた文体なので、そう感じたのかも知れない。

 

 少年刑務所で看守として働く主人公の前に、受刑者として現れたのは、子供時代に執拗な知能犯的イジメを主人公に課した男だった。・・という荒筋。

主人公と受刑者の緊張感溢れる心理描写が見事だ。

同時に、廃船になる青函連絡船と海に生きる男たちの心情・生活も描かれている。哀感に満ちながらも、流れ出さない。表面張力があるような文体が読んでいて気持ちいい。

 

 私の郷里は舞鶴(岸壁の母で有名になった京都府の港町)なので、海の描写がある物語は、ひときわ現実的に情景を思い浮かべてしまう。

 

 そして「雪」 

舞鶴は「弁当忘れても傘忘れるな」と言われるくらい、雨の多い土地で「雨具専門店」もあり、長靴や傘の品揃えが豊富だ。

東京では、傘や雨靴は「靴や鞄売場」の一部分に置かれていることが多いが、舞鶴ではその分野が専門化して成り立つのである。

100円のビニール傘が溢れる今では、そうでもないのかも知れない・・。でも私が育った時代「雨具屋」は健在だった。

 

 雨が多いので、当然湿気が多い。

初めて東京で「加湿機」を見た時は驚いた。「除湿機」しか用の無い風土なのである。

 

 豊富な雨は、冬になると雪に変わる。東京暮らしの方が長くなった今でも、やはり雪を見ないと冬になった気がしない。

 

 函館の寒さとは比べるべくもないが、郷里の冬を思い出した小説であった。

 

97年 第116回芥川賞受賞作品 納得のいく読み応え。

著者は私と同い年で、それも感慨深い。